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福島地方裁判所 昭和37年(行)10号 判決

原告 矢野竹二 外一四六名

被告 福島県知事

主文

原告らの訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの各負担とする。

事実

当事者双方の求める裁判、原告らおよび被告の各主張

別紙要約調書の各該当欄記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

行政事件訴訟法第三六条は、「無効等確認の訴えの原告適格」として、「無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。」と規定している。

原告等は、本件訴えにつき、原告適格を有する旨主張し、原告等がその主張する農地買収「処分に続く処分により損害を受けるおそれのある者」に該当するのみならず、更に右「処分の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」にも該当するゆえんを種々主張する。

ところで、前記行政事件訴訟法第三六条は、文理上、「その他当該処分……の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」は勿論のこと、同条の冒頭に掲記されている「当該処分……に続く処分により損害を受けるおそれのある者」であつても、いずれも「当該処分……の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないもの」でない限り、無効等確認の訴えの原告たる適格を有しない旨規定しているものと解すべきところ、原告等の本件訴えは、以下述べる理由から、「処分の無効等を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない」場合に該当しないことが明らかであるから、その余の点、すなわち原告等が「本件処分に続く処分により損害を受けるおそれがある」か否か、あるいは原告等が本件訴えについて如何なる「法律上の利益」を有するか否かの点について判断を加えるまでもなく、行政事件訴訟法第三六条に規定する原告適格を欠くことが明白であるといわざるをえない。すなわち、本件訴えは現在の法律関係に関する訴(たとえば所有権確認、所有権移転登記手続請求等の訴)によつてその目的を達しうることは疑問の余地がない。

原告等は、時効、除斥期間等の関係で原告等が仮に右の訴えを提起しても敗訴することが必定であるから、行政事件訴訟法第三六条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない」場合に該当すると主張するが、同条にいう「現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができない」場合とは、原告等主張のような「勝訴の目的を達することができない」場合を指称するものではなく、「紛争解決の目的を達することができない」場合を指称しているものと解するのが相当である。けだし、民事訴訟でも行政訴訟でも、その目的は対立する当事者間の紛争の解決に存するのであつて、決して一方当事者の利益のために訴訟制度が存するものではなく、従つて、何れかの勝訴又は敗訴等により紛争が訴訟上終局的に解決されゝば、それにより訴えは目的を達したものといわざるをえないからである。

されば、原告等の本件訴えは農地買収処分の無効を前提とする現在の法律関係に還元することが可能であり、それに対する裁判所の判断を求め得る以上、かゝる場合は前記法第三六条末段の「無効等を前提とする現在の法律関係に関する訴えにより目的を達することができない」場合には該当しないものといわざるをえず、よつて原告等は本件訴えにつき原告たる適格を欠くものである。

原告等はこの点に関係して、本件訴えのいわゆる「客観法的利益」なるものを強調するが、前記法第三六条の「無効等確認の訴え」は直接的、第一次的に国民の個別的権利救済を目的とするものであることは言を俟たないところであつて、いわゆる「違法宣言の訴え」ないしは「規範統制請求の訴え」等を認めた趣旨とは到底解されないから、この点に関する原告等の主張は独自の見解であつてとるを得ない。

又、原告等は前記法第三六条が、いやしくも現在の法律関係に関する訴えの提起が可能な限り、常に「無効等確認の訴え」を許さない趣旨であるとすれば、かゝる法条は憲法第三二条、同第七六条、同第八一条等に違反し無効であると主張し、その理由を縷々述べているが、しかし行政処分の無効等の主張は必ずしも「無効等確認の訴え」という訴訟形態によつてのみしなければならないというものではなく、「取消の訴え」において処分の瑕疵の一態様として無効原因を主張することが許されるのみならず、私法上の法律関係に関する訴訟において処分等の効力の有無等を争うことに対しては何らの制限もない(行政事件訴訟法第四五条参照)のであつて、かゝる訴訟形態によつて行政処分の無効等について裁判所の判断を受け得る機会が存する以上、たまたま立法政策上、「無効等確認の訴え」という特殊の訴訟形態による無効の主張が制限せられることがあるとしても、そのために直ちに国民の裁判を受ける権利等が奪われたとはいゝえないことは勿論である。この点に関する原告等の主張も採るを得ない。

以上のとおりであつて、本件訴えは行政事件訴訟法第三六条の規定に該当せず、従つて原告等は本件訴えにつき原告たる適格を欠くものというべきであるから、本件訴えは不適法として却下を免れない。

よつて民事訴訟法第八九条、同第九三条一項本文を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本晃平 小野幹雄 神作良二)

(別紙)

要約調書

第一、当事者の表示

別紙「当事者目録」記載のとおり。

第二、当事者双方の求める裁判

一、原告らの求める裁判

原告らと被告との間において、別紙「物件目録」記載の一番ないし一三八番の各土地につき、被告が別紙「買収及び売渡目録」買収時期欄記載の各日附でなした原告らに対する各買収処分の無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の求める裁判

原告らの訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの各負担とする。

第三、原告らの主張

(請求原因)

一、別紙「物件目録」記載の各土地は、もと原告らの各所有であつたが、被告福島県知事は、別紙「買収及び売渡目録」買収時期欄記載の各年月日に、自作農創設特別措置法(以下「自創法」という)第三条の規定に基き右各土地を原告らから各買収したうえ、同「目録」売渡時期欄記載の各年月日に、同法第一六条の規定に基き、これらを同「目録」中、政府より売り渡しを受けた者欄記載の者にそれぞれ売り渡し、その旨各所有権移転登記を経由した。

二、しかしながら、自創法は、憲法第二九条に違反し、同法第九八条第一項によりその効力を有しないものであるから、かゝる無効の法規によつて行つた被告の前記各土地に関する買収処分は無効である。

(一) 自創法は、「自作農を急速且つ広般に創設」することを目的として政府が一定の標準に基き、全国的規模において、画一的に農地を買収するとゝもに、かくして買収した農地を小作農その他一定の有資格者に売り渡すべきことを定めている。しかし、かゝる規定は、憲法第二九条第三項に規定する「公共のために用ひること」の範囲を逸脱し、同条第一項で明確に保障されている私有財産制を侵害ないし破壊する社会革命立法であつて違憲である。

すなわち、同条第三項にいう「公共のために用ひること」も、私有財産制の保障を前提とし、それを損じてはならないという限界があるばかりでなく、「公共のために」という言葉は、公共事業の用に供する等直接公共のために用いる場合のみを指称するのであつて、国家が私経済活動の調整のためにする場合――公共の利益のためにする場合は含まれないと解すべきである。

(二) 自創法第六条第三項に定める農地買収の対価は、憲法第二九条第三項の「正当な補償」に該当しないから、右対価による買収を定めた自創法の規定は、違憲・無効である。

(イ) 「正当な補償」とは、社会通念に照らして公正妥当な取引価格によるものでなければならない。現に同法第三一条第三項の未墾地買収価格、同法第三三条第三項等においては時価主義がとられ、又土地収用法による収用土地に対する補償についても同法第七二条により取引価格を基準として定める旨規定している。

然るに、自創法第六条第三項に定める農地買収の対価は、その取引価格に及ばないばかりか、それを基準とした相当な価格の名にも到底価しない名目的な対価たるに止まつている。

(ロ) のみならず、同法第一〇条の規定によれば、買収される農地の面積は、土地台帳に登録した当該農地の地積によることになつているが、一般に農地の実測面積が土地台帳に登録した面積より一割ないし数割多いことは公知の事実であつて、同条但書の面積の修正が殆んどなされなかつた実情の下では、たゞでさえ少額の対価を単位面積当りますます少額のものとしている。

三、右の如く自創法中関係諸条項は、すくなくとも昭和二二年五月三日の憲法施行後は無効であり、同法に基いてした被告の買収処分も無効なので、原告ら各自と被告との間において、前記各土地に関する前記各買収処分の無効の確認を求める。

(本案前の抗弁に対する原告らの主張)

一、本件訴えは、行政事件訴訟法第三六条に、いわゆる「当該処分(若しくは裁決の存否又はそ)の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつてその目的を達することができないもの」に該当し、従つて原告らは原告適格を有する。

(一) 行政事件訴訟法第三六条は、(イ)法律上現在の法律関係に関する訴訟方式が許されていても、(ロ)請求原因に理由がありながら請求原因外の何らかの理由のため、(ハ)かゝる訴訟方式によつたのでは、それによつて訴の目的を達することができないときは、(ニ)その場合に限り無効確認の訴えを提起することができる旨規定したものと解すべきである。

このことは、法が「訴えを提起しうること」或は「訴えをなしうること」という言葉を用いず「訴えの目的を達しうること」と判然言い切つている文理に徴しても、又法が無効確認の訴えにつきその除斥期間を限定せず、従つて現在の法律関係に関する訴えが、除斥期間或いは時効等により、提訴してもその目的を達することのできない場合に備えて、一種の補充的救済方法として無効確認の訴えを認めていることなどからしても、明白である。

(二) 原告らは、右の意味で現在の法律関係に関する訴えによつては、その目的を達することができないものに該当する。すなわち、本件土地買収処分の無効を前提として、現在の所有者らに対する当該土地の所有権確認の訴えを提起しても、取得時効をもつて対抗せられることは必定であり、又右買収処分の不法性を前提として、これが損害賠償の請求権・その支払義務の存在という現在の法律関係に関する訴えを提起しても、既に三年の除斥期間(民法第七二四条のいわゆる時効期間)が経過しており、又、国の買収対価の増額請求・その支払義務という現在の法律関係に関する訴えを提起しても、自創法第一四条の「一ケ月」の期間が経過しており、更に、本件土地買収処分の不当性を前提として国に対し不当利得返還請求という現在の法律関係に関する訴えを提起しても、消滅時効の規定の援用がなされうるからして、何れもその目的を達することが不可能である。

二、原告らは、本件訴訟について、つぎのとおり訴えの利益を有する。

(一) 原告らは、行政処分の無効の確認をうることそれ自体に法律上(主観法的ないし客観法的)の利益を有する。すなわち、行政処分の無効確認を求める訴えの目的は、「その処分の結果たる法律関係の存否を争うというよりも、むしろ当該行政処分自体の違法を攻撃して、その無効の確定を求めるものであり」、或いは、少くとも行政処分によつて生じた権利義務関係の存否と同時に、当該行政処分そのものにおける客観法的適合性の有無の確認を求めることにあり、(昭和二六年二月一五日宇都宮地判昭和二四年(行)第五二号行政例集二巻二号一六一頁、昭和二六年三月一〇日東地判昭和二四年(行)第一一三号行裁例集二巻四号五九五頁、昭和二六年五月一九日高松高判昭和二五年(ネ)第四一号行裁例集二巻五号八〇八頁各参照)その意味及び限度において、行政処分無効確認訴訟は、客観法的秩序の維持ということがその訴えの本質的第一義的利益である。「行政裁判は、もつぱら客観法・すなわち維持せられようとする法秩序に仕えるべきものであり、それによつて保護される(主観法的)利益にはたゞ間接にしか仕えるものではない。(オツトー・マイヤー)」人は法的に正しい行政の下にのみ服従すべく義務づけられているが、然らざる行政に対しては、自由権の発現として、それへの服従を拒否しうべき基本的権利を有しており、従つてかかる違法かつ無効な行政処分については、何時においても司直の判断によつて、そのまさに違法かつ無効であることの確認をうける権利があり法律上の利益がある。

(二) 第二に、本件訴えの利益として、原告らの「所有権者たる法的地位の回復」並びに国に対する立法的・財政的行為請求の「法的正当根拠の確立」がある。

すなわち、原告らは、(イ)一面、消極的意味においては、本件買収処分が法律上有効なものとして、その仮象的効果を持続する限りは、国から本件土地所有権の喪失に対する相当損害額の救済をうけえないという現実的に不安かつ不公正な地位におかれている。ゆえに、他のあらゆる法的救済の途の絶たれている今日、原告らは、当該農地買収処分の確効確認をえてすくなくとも国に対する関係において所有権者たる法的地位を回復してこの不安かつ不公正を即時除去してもらうことにおいて、本件訴えの利益がある。(ロ)他方、積極的意味においては、原告らは、本件農地買収処分の無効確認をさええれば、それによつて憲法第一六条及び同第二九条第三項等の規定にもとづき、国に対して本件土地各所有権相当の「損害の救済」を請求しうる法的正当根拠を確立しうる。

これらは、いずれも主観法的権利の特定形式を具えないものではあるが、なお行政裁判によつて保護せらるべき利益たるを失なわない。

(三) 第三に、本件訴えには、つぎのとおり予防的確認の利益がある。

すなわち、本件買収処分の違法性が裁判によつて確認されゝば、たとえ原告らの各所有農地が、今後何らかの原因で農地法令の定めた保有限度(農地法第三条二項三号、四号、同各附表、同法第六条一項一号、二号)を超過するに至ることがあつても、今後引き続く買収処分によつて、再び違憲違法の買収をうけるであろう危険を断つことができる。従つて、予めこれを防止するためかゝる買収処分の無効確認判決をうけておくことについての法的利益を有する。

三、原告らは、行政事件訴訟法第三六条前段の「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある」者に該当し、原告適格を有する。

(一) 前記二ノ(三)において述べたとおり、本件農地買収処分の違法性が裁判により確認されぬ以上、再び違憲違法の買収をうけるであろう危険が現存する。

(二) 法第三六条前段の「当該処分又は裁決に続く処分」という場合の「続く」は、同一事案の処理のために行なわれる段階的に発展する数個の処分相互の継続性のみならず、同種の処分の反覆される意味での連続性をも含むものと解すべきである。けだし、法の意図は、継続又は連続する違法な行政処分が、市民の法律上の地位に対して及ぼす不安や危険を、予め除去しようとするにあるからである。

四、法第三六条が、かりに、いやしくも現在の法律関係に関する訴えの提起が可能な限り、常に、無効確認の訴えを許さない趣旨であるとすれば、右法条は憲法第三二条、同第七六条、同第八一条等に違反し無効である。

(一) 法律上現在の法律関係に関する訴えが規定されている限り、それによつて訴えの目的を達成しうると否とにかゝわらず専一にたゞその訴えのみによるべきだとすれば、無効の行政処分に関しての現在の法律関係が何らかの形において常に存在しうるから法三六条は適用対象のすべてを喪失する結果にならざるをえず、行政処分または裁決の存否もしくはその有効・無効に関する確認訴訟は原則として拒否される。

(二) 従つて、本来、その本質上行政処分無効確認の訴えには除斥期間の制約のないのが建前であるのにもかゝわらず、少くとも現在の法律関係に関する訴えについては、当該法律関係に規定せられた除斥期間の経過後または関係時効の完成後に関する限り、もはや前提たる行政処分の不存在を争い、その無効を主張する機会は否定されざるをえない。

(三) 右は、憲法第七六条第一項、同法第八一条によつて最高裁判所及びその他の下級裁判所の管轄に属するものとせられている裁判所の裁判権を法律の規定をもつて制約し、右に述べた意味及び限度において行政処分に対する司法審査を否定するものであり、又憲法第三二条に定める国民の裁判を受ける権利すなわち訴権を法律の規定によつて制約又は排除することに帰し、いずれにせよ違憲の法令たるを免れない。

第四、被告の主張

(本案前の抗弁)

一、原告らは、本件農地買収無効確認の訴えについていずれも原告適格を欠き、従つて本件訴えは不適法であるから、却下せらるべきである。

すなわち、行政事件訴訟法第三六条によれば、行政処分の無効確認訴訟の許されるのは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他処分又は裁決の無効等確認を求めるにつき法律上の利益のある者で当該処分もしくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達しえないものに限るとされているところ、原告らに本件買収処分の後続処分により損害を受ける危険性を認むべき事情はなく、又本件訴えにおいて原告らの目的とするところが本件各土地に対する同人らの各所有権の確保以外にないことは明らかであるが、原告らとしては、本件買収処分の無効を前提とする原告らの右土地に対する各所有権の確認を求める訴えによつてその目的を達しうるのである。

従つて原告らは、本件訴えにつき、いずれも原告適格を欠くものである。

(原告らの主張に対し)

一、原告らの本件訴えの適法性に関する主張はすべて争う。

(一) 行政事件訴訟法第三条四項及び第三六条を綜合勘案すれば行政処分の無効または不存在(以下無効という)確認訴訟は、民事訴訟法におけるそれと同じく個別的権利救済を目的とする制度である。行政処分の無効が確認されれば、行政権に反省の機会が与えられ、ひいては行政運営の適正化が期待できないわけではない。しかしこれはあくまで権利救済に伴う事実上の効果であつて、行政事件訴訟法が無効確認訴訟に原告らのいわゆる客観法的利益を肯定しこれを民衆訴訟(同法第五条)におけるごとく独立の訴権として認めた趣旨では決してない。

(二) 行政事件訴訟法第三六条は、行政処分の無効であることを前提又は理由(以下前提という)とする現在の法律関係に還元しうる限り、原則として右法律関係に関する訴によらしめることとし、たゞ行政処分が無効であるに拘らずこれを有効としてその執行処分、後続処分など公権力の発動される危険性のある場合及び処分の無効確認を求める法律上の利益を有し、その無効を前提とする現在の法律関係に還元しえず、これに関する訴によりえない場合(許可申請を却下する処分の無効によつて還元される現在の法律関係は考えられない。なお却下処分に因る損害賠償請求の成否が処分自体とは別個の要件の充足如何によるこというをまたない。)に限り例外的に行政処分の無効確認訴訟を許すこととしている。その理由とするところは、個別的権利救済を本旨とする訴訟のたてまえに従つて、後続処分の危険性がなく、また当該処分の無効を前提とする現在の法律関係に還元しうる場合に、さらに行政処分の無効確認訴訟を認めることは、重複、無用であり、訴の利益、従つて原告適格なきに帰するとの観点からこれを禁止し、もつて旧行政事件訴訟特例法下の判例のゆきすぎを是正したにとゞまるのであつて、何ら憲法に保障された権利を奪うことにはならない。

(三) 同法条は原告適格に関する規定である。行政処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴により「目的を達することができない」場合に当るか否かは本案前の問題であり、当該請求の理由ありや否や、ないし請求原因に対する被告の抗弁の成否とは明らかに区別さるべきである。原告らの主張は同法条の文言を曲解したものにほかならない。

(四) 農地買収処分の無効確認訴訟はその性質上処分の無効を前提とする農地所有権確認等の訴に還元しうるものであり、原告らのいうような後続処分は同法条にいう(買収)処分に「続く処分」に当らず、買収処分について無効確認訴訟を許す余地はない。被買収者において買収の無効をめぐる法律上の不安を除去しようと欲するならば、専ら現在の法律関係に関する訴によるべきであり、その際、現在の法律関係が時効制度により影響をうけることは当然であつて、行政処分の無効確認訴訟に出訴期間の制限がないことゝ何ら矛盾するところはない。売渡をうけた者が取得時効を援用する事態においてはもはやいかなる訴訟形態によつても所有権を確保することは不可能であろう。しかしそれは被買収者が時効完成前に法の救済を求めることを怠つた結果に過ぎない。かかる場合現在の法律関係に関する訴が棄却されることにより、権利関係に関する不安は解消し、訴は紛争解決の目的を達するのである。

(別紙目録省略)

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